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第5回 :河内長野 つまようじ資料室

楊枝は奈良時代に仏教と共にインドから中国・朝鮮半島を経てわが国に伝わりました。当時は掛歯木と呼ばれ、木の技の一端を噛んで毛筆の毛先状にしたものです。そもそも、お釈迦さま(紀元前五百年頃)が、弟子達にこの歯木で歯を清潔にすることを教えられました。インドではニームという木の枝を用いました。
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中国にはこの木はなく、楊柳を用いました。それでようじを楊の枝、すなわち楊枝と書くのです。最初は僧侶に取り入れられ、平安時代に一部上流社会に伝わり、江戸時代には、房楊枝と呼ばれ庶民にも拡がりました。これは一方を房状にし、もう一方の先を鋭くして用いたのです。この先を鋭くした方を爪先でつまむようじという意味で、「つまようじ」になりました。従って正しくは爪楊枝と書きます。僧侶が常に身につけておくべき「十八物」の第一番にあげられているのが楊枝です。ロを漱ぎ身を清めることが信仰者の心得の第一条件であり、口腔のみならず保健衛生思想の第一歩であったことがうかがえます。
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今も仏教界では儀式化され残っています。京都の三十三間堂では毎年一月十五日に「楊枝のお加持大法要」が営まれています。楊枝が保健衛生の象徴として疫病退散に御利益があるということです。浅草寺では六月十八日に「楊枝浄水加持会」が営まれています。

同じことが回教でもいえます。マホメット(五七〇〜六三二)も歯木を使うことを大いに薦めています。そして大変興味深いのは、この歯木はサウジアラビア・インド・パキスタン等で今も日常的に使われていることです。使われる木はいずれも薬木でこの樹液の中に含まれるタンニンは歯茎を引き締め、フッ素は唾液の再石灰化を促し、歯の脱灰を抑制します。この樹液の抽出液を使った練歯磨きも作られています。

わが国では江戸時代には、主に店先で作られ販売されていました。浅草寺の境内、京都の四条、大阪の道頓堀等です。河内長野は明治の初め頃、近隣に多くあった黒文字(クスノキ科の灌木)や卯木(スイカズラ科で別名ウノハナ)の原木を当時の製造家に販売していましたが明治十六年頃大阪から二人の職人を招聘し、本格的に製造に着手しました。
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広栄社の初代・稲葉由太郎は大正十年に参重県鈴鹿郡関町で創しL、大正十三年アメリカから製造機械の一部を導人し、それを河内長野に設置し日本で初めての白樺による機械生産を始めたのです。
木場では白樺が初めて世に出ると大変話題になりました。
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苦心の末に出来た「平ようじ」は薄平ったく細い「つまようじ」です。わが国では殆ど使われませんが、英語で「つまようじTOOTHPICK」といえば「平ようじ」のことで、世界共通の「つまようじ」です。広栄社は昭和の初期よりこの「平ようじ」の海外市場の開拓に努め現在も各地に輸出しています。

河内長野が「つまようじ」の独占産地(全国の九十六パーセント)として今も残っているのは、「平ようじ」作りで他産地に先駆けて白樺を使い機械化に成功したからです。原材料の白樺は柔らか過ぎて家具や建材には不向きであり、「つまようじ」「割り箸」以外はチップ(紙の原料)にしかなりません。そのため価格的に安く、変な味や臭いもなく、色も白く、「つまようじ」には最適の材料でヨーロッパでもほとんど白樺製です。更に自生力が強いため、痩せた土地に強く、成長も早く、資源の有効活用の点でも優れています。
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現在、主流の丸い「つまようじ」は、欧米ではカクテルピックと呼び料理に用いたり、食べ物を突き刺すのに使います。そのためどちらでも使えるよう両方尖っています。ところで「つまようじ」の先進国は北欧です。北欧では、歯には断面が二等辺三角形になっている「三角ようじ」が多く使われます。高齢化社会を迎え、歯の大切さを十分知っている北欧の国々では、「つまようじ」に対する意識も格別です。これは歯と歯の間の形に合わせてつくられています。いつも身近に持ち歩き、食後すぐの歯の汚れを上の二辺で取り、底辺の部分で歯茎を軽く押しマッサージします。この「三角ようじ」は薬局で売られ、単なる「つまようじ」という考え方でなく、歯間清掃用具の一つとして欠かせないものと考えられています。
わが国でも最近薬局で売られるようになってきましたので、少しづつ 「つまようじ」の正しい使い分けが進むものと思います。
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さて、わが国や中国の「つまようじ」が宗教に深く関わったのに比べ、ヨーロッパでの歴史となると食生活の関係で多くは金属性の「つよようじ」が使われました。特に中世のヨーロッパでは、貴族は金や銀の釣り針状の「つまようじ」に宝石等の細工をさせ、それをネックレスとしていつも首にかけていました。また、テーブルセットにスプーン・フォーク・ナイフと共に「つまようじ」も加えられていました。このように、「つまようじ」は宗教・歴史・民族等により形や素材は異なっても各々の時代の中でその特色を見ることが出来ます。

最も小さな道具の一つではありますが、よく見ると、その中に「歴史・文化・生活・経済」が見えてくるのであります。


場所 〒586-0037 大阪府河内長野市上原町885
(株)広栄社 内
TEL 0721-52-2901(代)
FAX 0721-54-1092
最寄駅 南海高野線 河内長野駅下車 タクシー約5分
バス高向線「車庫前」下車西へ3分
開室日 原則として毎週土曜日  午前 9:00〜午後4:00 (祭日は休室)
入室料 無料


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